
キリスト教国であるリトアニアでは、クリスマスは1年で最も大きな行事です。この時期になると、街のあちこちにツリーが登場し、クリスマスマーケットで賑わいます。
街の様相は、他のヨーロッパ諸国と変わりはありませんが、キリスト教導入以前、自然崇拝に基づく多神教信仰が根付いていたリトアニアのクリスマスの伝統は、一種独特です。多神教信仰時代、もともとこの時期に行われていた冬至の行事が、いつしかカトリックのクリスマスと混ざり合い、現代にも残る形の伝統となりました。

クリスマス前夜に準備されるリトアニアの伝統的な夕食は、Kūčios(クーチョス)と呼ばれ、今でもリトアニアのクリスマスでは馴染みの深いものです。クーチョスには、キリスト教とキリスト教普及以前にリトアニアで信仰されていた多神教両方の伝統が混ざり合っており、リトアニアのクリスマスを特徴づける文化であると言えます。現在では、一部の伝統は段々と薄れ、この日、多くのリトアニア人は、家族や親戚たちと集まり、略式化した方法でクリスマスを祝うのが一般的ですが、今でも多くの家庭でクーチョスの食卓が囲まれます。
リトアニア人にとって、クーチョスほど神聖で、大切な食事はありません。この日は、たとえ家族がどんなに遠くにいようと、クーチョスの食卓に参加できるよう、それぞれが最大の努力をします。家族を同じ場所に引き寄せ、その絆を強めるのがクーチョスなのです。食事の準備は、1日がかりの大仕事ですが、地域によっては、1週間前から準備が行われることもあります。クリスマス前夜には、家中が隅々まで掃除され、全てのベッドリネンが洗濯された新しいものに変えられます。家族全員が、食卓に付く前までに入浴をすませ、洗濯された服に着替えます。そして、この神聖な食事のまでに、人との仲違いは修復し、敵は許すこととされています。
クーチョスの食卓は、独特な方法で準備されます。厩舎で生まれたイエスが、干し草の飼い葉桶に置かれたことを象徴する様に、テーブルには一握りの干草が均等に広げられ、その上に真っ白なテーブルクロスが覆われます。それから参加者のお皿がセットされ、多神教の時代の習わしに従って、もみの木、蝋燭、ライ麦の束などが装飾として飾られます。現代の私たちが知る、ポインセチアや生花などで装飾された煌びやかなテーブルとはかけ離れた食卓です。
もしも、その年に亡くなった家族がいた場合、その人用にも空席が設けられ、空のお皿が置かれ、その上に小さな蝋燭が灯され、食事の間中消されることはありません。その人の魂が参加者と共に宿っていると信じられているからです。夜空に一番星が現れた時、食事が食べ始められました。
クーチョスは、一切の肉類を含まない12種の料理からなります。一般のカトリック教会では、クリスマスイブには好きなだけ肉類を食べてもいいと宣言していますが、ほとんどのリトアニア人は、依然として本来の習慣を守っています。カトリック教会もかつては、信者たちはイブの日、一握りの茹でた豆と水しか取ることができず、例外として幼児や病人だけは、これ以外にも少しは食べることができました。リトアニア人にとっては、今でもイブの夕食には肉が含まれないことが非常に重要であり、もしそうでなければ、それはもはやクーチョスではなく、普段の食事と変わりなということになってしまいます。この習慣には、キリスト教と多神教両方の信仰が関係しており。多神教の時代には、9種の料理が出されていました。これは、当時の暦が9月から成っていたことにより、その後、13月から成る月の暦から13種の料理が習慣となることもありましたが、現代の太陽暦の影響を受け、その数が12へと変化しました。また、キリスト教徒にとて、12の料理はイエスキリストの12の高弟を意味します。

料理の内容は実に明確です。肉類、乳製品、温かい食べ物は一切含まれず、典型的な料理には、魚類、野菜、パン、数種のソースでいただくニシンなどがあります。ソースは、トマト、きのこ、玉ねぎがベースとなります。燻製のうなぎもまた典型的な料理です。その他、茹でたり焼かれたジャガイモ、クランベリーのデザート、ザワークラウト、きのこ、クチュケイ(ケシの実ビスケット)、クランベリープリン、雑穀パン、蜂蜜、マーガリンなど。これらの料理と共に、水や自家製サイダー、フルーツジュースなどが飲まれます。地域によっては、食卓にリンゴが置かれる習慣があり、これは12月24日がアダムとイブ祝祭の日であることに由来します。りんごを切り分けるのは母親の役目で、家族の人数分に切り分けられ、最初の1片は一家の父に与えられます。次に残りのリンゴが家族全員に配られます。

クーチョスの料理につき物のkūčiukai(クチュケイ)と呼ばれるケシの実のビスケットは、お供え用のパンの古い形で、その小さなフォルムは魂を表し、魂が物質的肉体を有さないことを意味し、またそのたくさんの数は、無数の魂が存在していることを表しています。クチュケイは、ケシの実から作ったミルクに浸して食べられます。

食事が始まる前、kalėdaitisと呼ばれる薄く白いウェアハースを家族で分け合う習慣があります。これは、蕎麦粉や小麦粉でできたシンプルなもので、一家の主人から家族皆に分け与えられ、手渡される際に来年の願い事が唱えられます。ビリニュスの教会では、クリスマスが近づくとこのウェアハースが売られています。
クーチョスの食卓で行われる興味深い占いをご紹介します。
・藁占い
テーブルについた人達は、それぞれテーブルクロスの下の藁に指を近づけ、最初に触れた一本を引っ張ります。引いた藁の形状で、以下のようにその人の未来を占います。
長い藁ー長寿を意味する
太い藁ー充実した人生を送る
曲がった藁ー翌年に転換期を迎える
枝分かれした藁ー翌年は多くの決断を下す1年となる
細長い藁ー背が高く痩せた男と結婚する
太く短い藁ー背の低い太った男と結婚する
※男性が引いた場合は女性の特徴
また既婚者の場合
細い藁ーお金で苦労する
太い藁ーお金に恵まれる
真ん中が膨らんだ藁ー翌年子宝に恵まれる
・影占い
食卓に灯されたキャドルが、壁に映し出すそれぞれの人の影の様子で、その人の1年を占います。
影全体が大きく、くっきりとしているー翌年は、健康で全てがうまくいく
影の頭がないー災難が起こる予兆
影が細く、ぼやけてゆらゆらしているー困難な翌年を迎える
食事が終わると、人々は眠りにつくか、真夜中のミサへと出かけます。テーブルの料理は、一晩中そのまま残されます。これは、亡くなった霊が夜中に家へ帰り、そこへ迎え入れられると信じられているためです。この日は、亡くなった全ての魂がそれぞれの家へ帰される日とされています。
この他にも、まだまだ不思議な物語のあるリトアニアのクリスマス…今回はこの辺で。
※原文https://en.wikipedia.org/wiki/Kūčios